衣類のリメイクは、SDGsやサステナブルという言葉とともに語られる機会が増えました。けれど、リメイクをご依頼くださるお客様の声に耳を傾けていると、その先に、もっと大きな何かがあるように感じます。
服は、ただの布ではないのかもしれない。そんな思いから、「一般社団法人 日本リ・ファッション協会」代表理事の鈴木純子さんに、服と人との関係についてお話を伺いました。

Q. 「衣」から循環型社会を、と考えたきっかけは?
鈴木さんは16歳のとき、「誰もが幸せに暮らせる社会」をつくりたいと決意しました。戦後に起業した祖父の姿を追い、自らも起業家をめざします。社会に出てからは、IT業界で仕事が人を壊していく現実を目の当たりにし、「幸せとは何か」を探し続けたそうです。
転機は、社会活動を通じて出会ったクリーニング業界でした。アパレルのしわ寄せが業界に集まっていること、そして生活者が衣生活で多くの困りごとを抱えていることを知ります。
「ウェア救急隊」というサイトを立ち上げ、日本各地の「衣の匠」を取材するなかで、日本の技術のすばらしさと、服に込められた思いの深さに触れました。衣食住の「衣」から循環型社会をつくることが、誰もが幸せになれる社会につながる。そう確信して、2009年に協会を立ち上げたといいます。

Q. 世の中の風向きは変わりましたか?
意外にも、長いあいだ「あまり変わっていない」と感じていたそうです。2018〜2019年にヨーロッパを訪れたとき、街中に「服を使い捨てにしない」という大きな啓発広告があり、セカンドハンドショップも当たり前のように並んでいて、日本との差に驚いたといいます。
その後、EUで法的な規制が始まり、日本の業界も無視できなくなりました。経産省や環境省が動き出し、なかでも環境省がサステナブルファッションの取り組みへの参加を呼びかけ始めたことには、本当に驚いたそうです。ここ数年で、状況は急速に変わってきています。
Q. 服と人との理想的な関係とは?
鈴木さんは、服は地球・自然からの贈り物であり、本来は自然に還るものだと話します。
天然繊維は土に還りますが、化学繊維は何百年も残ります。昔の着物は、着て、仕立て直し、パッチワークや雑巾になり、最後はかまどのたきつけになって、灰が畑に還りました。そんな美しい循環が理想だといいます。食品のコンポストのように、服も美しい形で自然の循環に戻したい、と。
そしてもうひとつ。服には、作った人、選んだ自分、着てきた時間の物語が詰まっています。その物語を語り合うことで、服を大切にする文化が生まれると考えているそうです。だからこそ、買うときには「本当に欲しいのか」と立ち止まってほしい。同調圧力に流されず、自分らしい選択をしてほしい、と話してくれました。

Q. 服を長く使い続けるには?
人間は飽きるものです。だから、服を長く使い続けるには、ケアやメンテナンスだけでなく、「変化をもたらすサービス」の受け皿が必要だといいます。
手放すときにも、「良い状態で次の人に渡す」という意識を持つこと。喜んでもらえる姿を思い浮かべることが、暮らしの習慣を変えていく。ゴミにしない、という考え方も大切だと話してくれました。

Q. これからの「リメイク」の可能性は?
服は家と同じで、自分の成長や暮らしの変化とともに、使い方が変わっていくもの。丁寧に使えば長く人生に寄り添い、そこには作り手、生産者、デザイナーのバックストーリーも詰まっています。リメイクとは、その服が持つ物語を次のステージへつなぐ行為。家のリフォームのように、長く大切にしたいものほど、専門家が関わる意味があるといいます。
そして、捨てられない服、手放せない服には、必ず理由がある。その思いを語り合うことで、服への愛着はさらに深まる。リメイクは、その「語りの場」にもなり得る、価値ある仕事だと、鈴木さんは話してくれました。

kibi-ru REMAKE(きびるリメイク)の現場から
最初にご依頼をいただくとき、動機として多いのは「捨てるにはもったいない」「捨てられないけれど、使えない」というものです。ところが、仕上がったバッグや小物を手にした方は、みなさん口をそろえて「こんなに感動するとは思わなかった」とおっしゃいます。鈴木さんの言う「物語を次のステージへつなぐ」とは、きっとこういうことなのだと思います。
お客様のお話を、3つご紹介します。
60代の女性は、複雑な思いを抱いていたお母様の、唯一の親らしい思い出だった成人式の着物をリメイクしました。形が変わったとき、お母様への気持ちが、ふっとリセットされたような気がしたそうです。
50代の女性は、怖い存在だったお母様の着物を、三姉妹のバッグに仕立てました。お母様と同じ年齢になった今、その気持ちが少し分かる気がして、リメイクをきっかけに避けてきたお母様の話をするようになったそうです。
同じく50代の女性は、最愛のご主人の剣道着をショルダーバッグにしました。娘さんたちと喜び合い、抱きしめると道着の香りがして、すぐそばにいてくれるようだと話してくださいました。
どのお話にも、衣類がただの布ではなく、気持ちの置き場所になっていることを感じます。肌に寄り添う衣類は、故人の面影や、自分の大切な思い出を、あたたかさをもって記憶しているのかもしれません。

服を通して、ライフスタイルを見つめ直す
鈴木さんとお話しするたびに伺うのが、単なる「服の再利用」ではなく、「いいものを長く愛用するための技や知恵を見直し、ライフスタイルそのものを変える」という言葉です。私もその考え方に、深く共感しています。
あなたの手元にも、捨てられない一着はありませんか。
その理由は、これまでのあなたの、何を映しているでしょう。
そして、その一着と、これからどんなふうに歩いていきたいですか。

日本リ・ファッション協会について
一般社団法人日本リ・ファッション協会は、持続可能な循環型社会を実現するため、着るものから暮らしを見直す活動を行っています。日本伝統の知恵や技、創意工夫による持続可能で心豊かな生活スタイルを「リ・ファッション」と定義。「リ」には、リスペクトの思いが込められています。
日本では、環境省が「サステナブルファッション・パートナー制度」を創設しました。企業や団体、自治体、学校などが連携し、服を長く着ることやリユース、資源回収を暮らしに広げていく仕組みです。日本リ・ファッション協会も、このパートナー会員として登録されています。
日本リ・ファッション協会
http://www.refashion.jp/
環境省:サステナブルファッション・パートナー制度について
https://www.env.go.jp/press/press_05393.html


